9月15日、風をあつめて、月に飛ばして

〈プロローグ〉
今夜も桜田(妹の方)だ。私には、愛の生活の呪いがかかっている。金井美恵子でなくて、岡崎京子の方。金井美恵子の愛の生活も彼女の初期の傑作のひとつで大好きだけれど。もちろん呪いとは同時に祝福のことである。

半年ぶり、いや、嘘だ、記憶にない、一年以上かもしれない、に休みができたので(今日やっておかないと後ほど不具合が生じるという類いの用事がなく、人とのアポイントメントもないという意味で。金銭の授受がなくてもコミットメントがあるなら友人と出かける等のプライベートのアポイントメントでも厳密には休みではないように感じる)、今後の展開の為にもいざタブラ・ラサ。こんなのどれくらいぶりだろう!今日は生業については一切考えずに一日を過ごすことにした。音楽と文字だけで綴られたものは生業に近すぎるので100パーセント娯楽という感覚にはならない。私の娯楽は映画と漫画にある。私の視覚は聴覚と言語感覚よりも乏しいので丁度よいのである。

二日前から(つまりAnything Blue横浜公演の前日)どうしても観たいという大きな衝動に駆られていた映画は3本あった。それぞれが、ギリシャ、モロッコ、チベットで撮られた映画だった。二日後には必ず観に行けるのだから!と、意気揚々、ひとつの儀式を終えた状態を想像し、ライブ準備もはかどったものである。ライブの様子は前述したとおりだ。ものすごかった。

ところがどういうことだろう、たった二日後に、これら全ての映画がもう上映されていないパラレルワールドに飛んできてしまうなんて。私は途方に暮れた。シャワーを浴びながら、大澤誉志幸の曲を口ずさんでみたりした。

しかしこんなに長い間映画館に行っていないと干からびてしまう(映画か映画的なものは睡眠導入剤として毎日観ているのだけれど映画館には行けていない)。水を飲みに行かなければ。検索をかけたところ、急げばまだ今日中にそれなりに興味深い2本が観られることが判明した。いちおう軽くネット上のレヴューもチェックする。Rotten Tomatoesで98%!?何かのバグではないかと思ったけれど確かめる為にもひとつはこれに決まり。ブルグ13のIMAX上映に間に合う。2本目はたいして選択肢がない。ベイバイクで移動して次はジャック&ベティだ。

結局比較的馴染み深い文化を持つアメリカと日本の映画を観ることになった。コレットマーレのPAULで朝食のアヴォカドのサンドイッチと、ビオセボンでスナック用のブール・ド・ルージュとルイボスティーも買う。これで準備はOK、6時間はそれほど長くない。

デスティン・ダニエル・クレットン監督『シャン・チー/テン・リングスの伝説』

爽快!ウェルメイド!くうううううーマーヴェルはオーディエンスが次に望むものをわかってる!痒いところには手が届きかつまさに予想の斜め上をいく作りとはこのことか。アンダーソン・パークのクール過ぎるエンディング曲も含め完璧か…。Rotten Tomatoesに狂いなし。

トニー・レオンとファラ・チャン、そしてミシェル・ヨーの艶やかさ。舞踏のように流れる戦闘シーン。男女の関係はもちろん恋愛だけではない。ヒロインが同時に道化役でしかもちゃんと魅了的。遂にステレオタイプから抜け出したヒロインが現れた。遅いよ世界!でもやってくれてありがとう。サントラにはZion.T、88rising、Jhene Aiko、星野源!まで参加。やはり完璧か….。上映後の高校生たちの反応も可愛かった。ん?でもサントラにヒロイン役のAwkwafinaが参加してないのはなぜ?

ウエダアツシ監督『うみべの女の子』

ポルノよりもポルノ的なもの。90年代後半の片田舎の中高生ってこんな感じ(私は横浜の片田舎出身、横浜は広い)。全ての集約点の9月15日ってAnything Blue横浜公演と同じ日だなあ。はっぴいえんど「風をあつめて」ってFly Me To The Moonのヴァースの和訳と一緒じゃないの。これぐらいのシンクロニシティーは日常の我が摩訶不思議人生。というか、これぐらいのセレンディピティは誰の人生にも必ず起きている。唯一の違いは、気づくか気づかないか。

台風が全てを浮き立たせ、そして洗い流す。結局のところ、世界を揺るがすのはボーイミーツガール。ほんとうのことを言うときは船もカメラもグラグラ揺れて、心臓が飛び出そう。吐きそう。胸が痛い。死ぬか生きるかの通過儀礼はこの社会の14歳にも引き続き存在していると思う。毎日ちゃんと死んでますか?それは毎日生まれ変わるということなので。

〈エピローグ〉
悩める桜田(妹の方)は前日にタロットリーディングをしていたのだ。結果は、そのまま事実の反映である。この問題に関しては、ひとり静かに闘う。猛獣を飼いならす。四面楚歌。果たしていちばん重要な最終的なアドヴァイスとは、「風が吹くのを待て」。もうすぐに、人智の及ばない何らかの力が働いて形勢が逆転する。乾季が雨季に変わる、それは生命の約束、三月の雨。私はただ待つことにした。風マチ。台風がやってくる。

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